テレビ会議でも大丈夫?

二○○二年一月には、東京都の「公金管理に関する検討委員会」が報告書を公表し、金融機関の経営状況把握に関する具体的方法や状況に応じた対応策を明らかにし、常設の諮問機関としての公金管理委員会を設置した。 大口預金者である地方公共団体が、金融機関の経営状況に対する関心を強めることは、問題金融機関の早期発見につながるとともに、経営規律を向上させる効果も期待できる。
ところで、そもそも預金保険という特別なセーフティ・ネット(安全網)が金融機関の預金という金融商品だけに設けられている一つの理由は、預金が決済手段として用いられており、金融機関の破綻によって預金が穀損した場合に決済が円滑に行われなくなることによって金融システム全体に影響が及ぶ、システミック・リスクを防止するためである。 もちろん、預金保険の存在理由は、それだけではなく、金融システムの安全性に対する信頼感を高めるという意義もあるだろう。
ペイオフ凍結解除が予定通り実施されれば、実際にペイオフを行うにせよ、いわゆるP&A(資産負債承継)方式による処理にあたって預金保険の上限までの資金援助を行うにせよ、金融機関の破綻時に仕掛かりとなっていた決済資金の取り扱いが大きな問題となる。 そこで、二○○二年八月、金融審議会に「決済機能の安定確保に関するプロジェクト・チーム」が設置され、決済機能の安全性を確保するための方策が検討されることになった。
その結果、二○○二年九月に発表された報告書では、仕掛かり中の決済を金融機関の破綻にもかかわらず結了させるために分別経理処理や預金保険機構による資金貸付等の措置を講じるとともに、@為替取引(決済)に利用できる、A要求払い、B利息が付されない、という三つの条件を満たす預金を「決済用預金」とし、ペイオフ凍結解除後も全額保護の対象とすることが提言された。 もちろん、報告書は、ペイオフ凍結解除を通じて、預金から他の金融商品への資金移転を促すという金融ビッグバンの精神を無視しているわけでは決してない。
例えば、決済用預金の存在が、預金者のモラル・ハザードにつながらないよう、決済用預金に対する預金保険料を他の預金よりも高く設定することや預金者からの手数料徴収といった方策を講じるべきだとしている。 このように、二○○三年四月のペイオフ凍結解除を前提としながら、いわばそのための体制整備が粛々と進められていたわけだが、事態は、K純一郎首相による内閣改造という政治的要素も加わり、更なる変転を遂げることになった。
二○○二年九月末、経済財政担当大臣のまま兼任する形で就任したT金融担当大臣は、構造改革を加速化するとの改造内閣の方針に基づき、厳しい銀行批判を繰り広げてきたことで知られるK氏をメンバーに起用して「金融分野緊急対応戦略プロジェクト・チーム」を発足させたのである。 新たなプロジェクト・チームの検討を受けて、一○月末には、「金融再生プログラム」が策定された。
プログラムは、二○○四年度には主要行の不良債権比率を半分程度にまで低下させ、問題の解決を図るとする一方、決済性預金に関するペイオフ凍結解除を更に二年間延期して二○○五年四月とし、それ以降は、全額保護の対象とされる決済用預金を導入すると宣言したのである。 こうして、当初、二○○一年三月末とされた金融ビッグバンの完了期日は、二○○五年三月末まで、事実上四年間先送りされることになった。

もっとも、念のために付け加えておけば、ここに至るまでの金融システム対策の内容は、決して問題先送りと批判されるべきものばかりではなかった。 むしろ、わが国の金融システムが、ほとんどの人の見通しをはるかに上回る深い傷を負ってしまっているというのが実相なのである。
一九九二年から二○○二年までに破綻処理された銀行、信用金庫、信用組合の数は一七八を数える。 この間の預金保険機構による資金贈与や資産の買い取りに投じられた金額は二四兆円を超え、金融機関に対する公的資本注入の総額は一○兆円に達する。
しかも、二○○三年五月には、りそな銀行の自己資本比率が、三月期決算で四%を割り込んだことが明らかとなった。 これを受けて、「信用秩序の維持に極めて重大な支障が生ずるおそれがある」(預金保険法第一○二条)との判断の下に、K首相が初の金融危機対応会議を招集し、自己資本充実のための公的資金投入が進められることになった。
幸いいち早く預金全額保護の方針が示され、「あくまで破綻ではなく健全化のための資本強化」との説明が広く浸透したこともあり、一九九七年、九八年のような切迫した事態とはならなかった。 とはいえ、四大メガバンクに次ぐ大手行の経営不安が明らかになったことで、わが国金融システムの脆弱性が、改めて浮き彫りにされたことは間違いない。
それにしても、金融ビッグバンが予定通りに完了したとは言えないという事実は否定できない。 その意味では、金融ビッグバンによる制度改革が終わったのに金融構造が変わっていないのはなぜかを考えようという、本書の問題設定はもともと正しくないのかもしれない。
そもそも、三つの審議会の答申・報告や金融システム改革法に盛り込まれた制度改正を実施するという限りでは、確かに金融ビッグバンは当初の予定通りに完了したが、不良債権問題の解決とペィオフ凍結解除という「総仕上げ」が終わっていない状況なのである。 現下の経済情勢を考えれば、単純にペイオフ凍結解除を急げばよいというわけでないのは当然である。
しかし、「総仕上げ」に手が着かないビッグバンでは、画竜点晴を欠くと言わざるを得ないだろう。 一九九七年の夏以降、金融構造改革をめぐる議論がトーン・ダウンしていった要因として、不良債権問題の長期化と並んで、大蔵省スキャンダルがあったことを指摘した。

この時期、旧大蔵省は、既に世論の強い批判にさらされていた。 一九九四年に破綻した東京協和・安全信用組合の処理に絡んで、一部幹部の接待疑惑などスキャンダルが取り上げられていたためである。
この問題は、当事者の辞職や監督責任者に対する処分に加えて、金融機関に対する検査・監督機能を分離して金融監督庁を設置することで、何とか収拾に向かった。 その金融監督庁設置法が成立したのが一九九七年六月である。
「新しい金融の流れに関する懇談会」の発足は、その翌月であり、旧大蔵省のスタッフは、ようやく過去と訣別し、前向きに制度改革を議論すべく心機一転スタートを切ったという気持ちだったろう。 ところが、懇談会における議論がようやく佳境に入ってきた矢先の一九九八年一月、金融検査官をめぐる贈収賄問題が新たに急浮上した。
この問題は、旧大蔵省の幹部職員を含む多数の関係者の逮捕や辞職につながり、自殺者まで出す事態となった末、日本銀行にも飛び火した。 旧大蔵省の権威は著失墜し、その後しばらくは、制度改革に関して積極的なイニシアティブを発揮することは困難となった。
しかも、この一大不祥事は、前年に発覚した野村讃券と旧第一勧業銀行が絡んだ総会屋事件の捜査の延長線上で明るみに出たものであった。
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